ワンショットワンキル

最強の狙撃手

最強の狙撃手

第二次世界大戦公式記録第二位のドイツ軍スナイパー、ゼップ・アラーベルガーを題材にした本。
終戦後表舞台から姿を消し、高齢に差し掛かっていたゼップから当時の戦闘の様子を聞き取りし、筆者が補完したという特殊な内容となっております。
なので、たぶんにノンフィクションとは言い難い内容ではあります。無論、可能な限り公式記録と照らし合わせは行ってはいるようです。


東部戦線(独ソ戦ですね)はスターリングラードでの破滅以来、小さな勝利は重ねつつも、本質的には後退につぐ後退、敗北につぐ敗北の連続であるドイツ軍。
その第3山岳師団第144連隊に、わずか18歳のゼップは派遣されます。本来山岳師団は山岳猟兵の部隊ですが、負けがこんでいるドイツ軍はゼップを特別な訓練を施せずただの歩兵として補充しました。
はじめは軽機関銃手だったゼップ。敵兵からその火力ゆえに集中攻撃を受けやすく死亡率の高い軽機関銃手から「生き残るために」狙撃手となる道を選びます。
狙撃手の必要性を前線は意識しながらも、装甲兵器による電撃戦を重視する軍上層部。ドイツにはまともな狙撃銃が存在しなかったことからか、ゼップはソ連から鹵獲した狙撃用モシン・ナガンを愛銃としていきます。
華々しい戦闘記録でなく本人の体験に基づいた内容であるため、兵站の不足からくる下痢と体調不良、精密加工故にロシアの冬の大地で凍りつくドイツ軍火器、ドイツ軍ソ連軍双方が行う残虐行為、民間人に紛れるパルチザンの恐怖、勝利という名の夢想にすがる硬直したドイツ軍司令部、味方狩りに走る武装親衛隊、戦争法規を無視しての空軍機観測用の炸裂型B薬莢の狙撃銃での使用などが、当時の写真を交えて生々しく語られていきます(白黒ですが破壊された死体というショッキングな写真の掲示もあり)。


全編に渡り敗走の記録ではありますし、淡々と戦史を語るという内容ではありませんが、実際に戦争に参加し、生き延びたひとりの狙撃手の記録として大変興味深かったです。
あっという間に読破してしまいました。