レッド・アフガン

今戦争映画が熱い(俺の中で)。

レッド・アフガン [DVD]

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ソビエト連邦アフガニスタン侵攻の一幕を描いたアメリカ映画です。
製作は1988年、まだソ連があり、世界が米ソの二大国が敷いた鉄の規律により争いが行われていた冷戦時代の作品です。
アメリカ映画なのでソ連兵が英語を喋ってますが、まあその辺は他の戦争映画もそうですのであんまりつっこんじゃいけないでしょう。


アフガン・ゲリラの集落を襲撃する三輌のソ連戦車T-55。
同胞を多数虐殺され、兄を戦車の履帯(所謂キャタピラですな)により轢殺された若きカーン(首長)タジャは、復讐のために仲間たちとともにソ連戦車を追う。
一方集落を襲撃した戦車部隊を指揮していたダスカル隊長の戦車は本体とはぐれ、道に迷っていた。
追うゲリラと追われる戦車。
やがて戦車に対し偏執的な愛情を抱く戦車長ダスカルの非道に反抗した操縦手のコベチェンコは、荒野にひとり置き去りにされる。
復讐に燃える集落の女たちに発見され、危うく殺されそうになったコベチェンコはタジャに助けられる。
ゲリラの持つ壊れたRPGを修理し、信頼を勝ち得たコベチェンコは言葉も通じぬ彼らの復讐に協力することになるのだった……。


というのが基幹ストーリー。


古い映画ですが、いや面白かった。
開始五分で面白い映画というのは最後まで面白い。
アフガンの荒野を砂塵をあげながら疾走するT-55がひたすらカッコイイ。
この映画にでてくるT-55はイスラエルの鹵獲戦車を使っているそうです。
つまりは実機。僕はCG肯定派ですけれども、やはり本物の戦車はド迫力です。
冒頭の集落襲撃シーンでは、戦車砲から砲弾を実際に発射しているらしく、地面から土埃を巻き上げ、大気を引き裂きながら飛翔する砲弾が、家々を破壊していきます。このあたり、あまりの迫力に印象深いシーンです。


列強諸国のグレートゲームに曝されてきた過去があり、イギリスのエンフィールド製ライフルや、ソ連のAKなど雑多な火器で武装したアフガンのイスラム・ゲリラ。
本来なら数十時間も稼動させるものではない戦車を逃亡のために酷使し、暇を見つけてはこまめにメンテをする搭乗員たち。それでも履帯は傷つき、オイルは漏れ、エンジンは焼きつきそうになり、「陸の王者」戦車が徐々に疲弊していく。
ここら辺がたいへんリアルを感じました。
履帯を損傷した戦車がどのように行動不能になるか、という場面はそう見れるものでもないのでなかなか新鮮でした。


作中に、エンジントラブルで立ち往生している最中にゲリラが接近→距離1000mにゲリラ!→エンジン始動急げ!→オーバーヒートで動きません→エンジン点火できないので砲塔も動かせない→ダスカル戦車長が手動で必死こいて砲塔を旋回させて照準→(対歩兵用の)破片弾装填!→残弾0です!→しかたないので対戦車榴弾ぶっぱなす→当たらない→(ゲリラの)RPG射程内です!→ようやくエンジンの始動に成功する→必死こいて脱出
というシーンは緊迫モノでした。
この映画、一応の主役はゲリラのタジャに協力するコベチェンコなのでしょうが、思わず追われるT-55にも感情移入してしまいます。
映画の元の原題はザ・ビーストで、T-55は作中でもゲリラに「けもの」と呼ばれています。
そういった点ではT-55が主役のロードムービーなのでしょうね。
一番魅力的な人物は戦車愛好家で、8歳のときに第二次大戦中のスターリングラードナチス・ドイツの戦車相手に破壊工作をしていたせいで人格が歪んでしまったダスカル戦車長なんでしょうが。この人、戦車を語るときは目が据わってます。


最後、タジャたちから一定の信頼を得られながらも、コベチェンコは結局彼らの元を去る、というのがなかなか印象的です。
作中にでてくるアフガンのイスラム・ゲリラを、独自の文明と規律を持った勇敢な人々である、と描いているのは東西冷戦という時代を感じました。
今のアメリカ映画じゃここらへんは描写できないだろうなぁ。


ソ連戦車T-55が主役ともいえるこの映画、戦車好きの間では有名な作品だそうです。
戦争映画や戦車が好きな方は、是非一度ご覧になってください。T-55の描写が、物凄く面白いですよ。