化学物質は絶対悪だという信仰

世間様から邪悪なるモノとして叩かれる化学物質とは実際にはどんなものであるのか? というのをわかりやすく解説したご本。
今から10年くらい前には、かのダイオキシンが最強の毒性を持つ化学物質だなんだと騒がれ、ビニール袋が悪いだの、古い焼却炉が発生源だと叩き壊されていたりしたもんです。
そんな狂騒の時代を終え、最近すっかり聞かなくなったダイオキシン
最近の研究の主流はダイオキシンは(とりわけ人間には)そこまで毒性が高くないのではないか、というものだそうです。
そりゃまあイタリアの小都市に農薬工場爆発事故で22億人の致死量(モルモット換算)のダイオキシンが降り注いでも死者数0、ダイオキシン高濃度汚染キャベツ200万個に匹敵する量のダイオキシンを盛られたウクライナの大統領候補だったユシチェンコが存命だったりといった話を聞かされると、あの大騒ぎはなんだったのかと今更ながらに思います。


この本のなかではサリドマイドの話が一番興味深かったです。
サリドマイドというとサリドマイド症のイメージが強い(というかほぼそれしかない)ですが、1964年にイスラエスの医師ヤコブ・シェスキンがハンセン病患者に投与(サリドマイドは優れた痛み止め・鎮静効果を持つ)したところ、劇的な改善が見られ、結果、地上から9割のハンセン病療院を閉鎖させることに繋がったそうです。
その他自己免疫性疾患や、エイズやガンにも有用性があり、研究が進められているとか。
化学の進歩は日進月歩とでもいうべきでしょうか、この本が出版されたのは2008年ですが、2010年現在、サリドマイド - Wikipediaによるとサリドマイドの催奇形性のメカニズムが解明されつつあるそうで、更なる研究の進歩が期待されているそうです。


現代社会を生きる上で「ゼロリスク」なるものが過度な幻想だということが良くわかる一冊です。