売られる野生動物

チモールニシキヘビ20匹を約140万円で買わないか? ――ワシントン条約に関する書類は全部ある。

98年メキシコシティ国際空港である男が米国内務省野生生物局により連行される。
爬虫類の違法取引で有罪となり、世界に悪名を轟かせたアンソンことマレーシア人のワン・ケン・リアン。


マレーシアという国家そのもの、野生生物・国立公園局といった公的機関、さらにはその中の法執行部門の幹部すら抱きこみ、「合法的な事業を含めて」東南アジアを中心に存在する野生生物の違法取引に迫っています。
メディアに登場するときに「ワシントン条約により保護されている」と斜め四十五度に間違った説明がなされるCITES (サイテス)に関してもさすがナショナルジオグラフィック、一応ちゃんと解説しています。
アンソンはなんでも取り扱ったそうです。コモドドラゴン、ムカシトカゲ、ヘサキリクガメ
その他鳥類哺乳類、植物などの希少生物。
それに対して、あまりにも非力すぎるNGOとインターポールの存在。


冒頭の、合法的な事業としての皮製品のために解体される寸前の吊るされたブラッドパイソン(立派な大型個体)たちの写真はインパクト大です。


東南アジアにおける合法的な野生生物取引の、輸出側上位5カ国と、輸入側上位5カ国なんてものも載っています。
日本の輸入量一位はミズオオトカゲだそうです(生体だけでなく「部位」も含む)。
意外なところでイタリアが上位5カ国に入っていて取引量のトップがアミメニシキヘビなんですけれども、これは生体数が0で「部位」がほとんどを占めているところを見ると、皮製品のための輸入なんでしょうね。

東南アジアにおいて合法・非合法問わず外貨獲得の手段として、野生生物輸出がいかに経済活動に密接な係わりを持っているかがわかります。
しかし、まあ、アメリカの生体の輸入量は圧倒的な数だなぁ、とは感じました。


我々が普段は深く意識しないであろう世界の実情を、鋭く抉った渾身のルポ。
知的好奇心を多分に満足させる内容です。
爬虫類飼育者ならばさらに興味深く読めると思います。